本物の包摂性

P1649(Scan出版物/Patterns)

2021年6月

著者:David Strachan-Olson

職場文化を変えれば、多様な経歴をもつ従業員が真の自分でいられる環境作りが可能になる。

企業はここ数十年、労働力の多様性を高めようとするイニシアティブを掲げてきた。実際、企業側は求人広告では「ありのままの自分で働いてください」と宣伝するが、自分の思い通り行動し、職場では多様な意見を共有することに抵抗を感じる場面は結構ある。2019 年新型コロナウイルス感染症(covid-19)のパンデミックと最近の社会正義運動は、抵抗なく本当の自分らしさを認めてくれる多様な職場づくりについて議論する余地を生んでいる。

ニューヨークの TED 財団からシアトル開催の認可を受けてイベントを主催する独立系非営利団体TEDxSeattle の 2020 年の講演会で、ライターの JodiAnn Burey 氏は、企業採用における多様性のメッセージと、実際の職場で従業員がおかれる人間関係との間に存在する不一致について話した。Burey 氏は、企業が重視する採用候補者として「我々の考え方に挑戦する目新しい意見をもたらしてくれる情熱的な人」と書かれた人材要求メッセージと、「貧困やマイノリティに属する人たちが職場で本当の自身の意見を述べたところ同僚や上司から抵抗にあった」という実際の経験を並べてみせた。Burey 氏は、企業がどう変われば、職場で実際に多様な経歴を受け入れられるようになるか、議論の火付け役になりたいと願っている。

パンデミックとリモートワークの突然の拡大は、企業に、物理的スペースだけでなく、従業員がいかに意思を疎通して協働できるかを含めた職場環境の見直しを後押ししている。すでに、サンフランシスコのSalesforce.com などの大手企業は、場所を問わずフレキシブルな日程で働くことを認める恒久的リモートワークの方針を発表している。こうした仕切り直しの一環として、企業には、自社の労働環境に本物の包摂性を取り入れるチャンスが巡ってきている。例えば、日本のファーイースト・ブルーイングは、本社を東京から小さな農村(小菅村)へと移転することで、思いがけず多様な労働力を確保することができた。同社の地ビール醸造所は、賃貸にかかる費用を節約し、製造と販売の調整をしやすくするために移転したが、それによって生活費の高い東京を離れた多様な従業員を雇用することが可能だとわかった。リモートワークの出現と事業所の大都市からの移転によって、企業にとって多様な経歴をもつ人たちの雇用が可能になるだろう。それでもやはり、企業は、誰もが真の自分でいられる環境づくりに積極的役割を果たす必要がある。(英文)