巨大ハイテク企業とパンデミック後の世界

2022年11月

著者:Katerie Whitman

ハイテク企業はその後、思い描いていたデジタルな未来が、実際のところ急速に近づきつつあるわけではないことを実感するようになった。それどころか、完全にとは言えないまでも、世界はパンデミック前の状態に回帰する傾向を強く示している。

巨大ハイテク企業とパンデミック後の世界

Covid-19パンデミックとともに対面での交流が一気に廃れ、世界は以前よりもはるかにオンライン化した。消費者はネット通販と商品配送へ急速に流れていき、多くの実店舗ビジネスの需要が消え去った。また、自宅以外で行われていたフィットネスや娯楽など、さまざま活動を自宅で行うための代替手段が盛んに利用されるようになり、在来のスポーツクラブや映画館などは大打撃を被った。会社員が一斉に在宅勤務に切り替わるにつれ、オフィスビルはもぬけの殻となり、住宅用不動産の需要が増加した。その間、世界の急速なデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現する製品やサービスを提供しているハイテク企業が大幅な増収となり、需要の増大に対応する新たな巨大インフラを構築すべく、設備や人員の拡充に走った。多くのアナリストが、世界の急速なデジタル化は永続的な流れと予測していた。そのためハイテク企業はその予測に沿った計画を立案し、急速に近づきつつあるデジタルな未来で優位に立とうと、野心的で多くのコストを要する長期戦略を採用した。

ハイテク企業はその後、思い描いていたデジタルな未来が、実際のところ急速に近づきつつあるわけではないことを実感するようになった。それどころか、完全にとは言えないまでも、世界はパンデミック前の状態に回帰する傾向を強く示している。この変化のありようは、少なくとも一部のハイテク企業にとって寝耳に水だったようだ。たとえば2022年前半にはEコマース需要の成長が鈍化し始めたので、すでに2019年から2021年にかけてフルフィルメント能力を2倍に増強していたamazon.comは、フルフィルメント・センターのネットワークを継続的に拡大する計画を縮小する方針に転換した。2022年9月の時点でamazonは21箇所のフルフィルメント・センターを廃止し、予定していた48箇所の新設を取り消すか延期している。同じように、Facebook、Instagram、WhatsAppを運営しているMeta Platformsは2022年11月、パンデミック期におけるオンラインサービス(およびオンライン広告)の需要急増を受けて約2倍に増やしていた従業員を13%削減すると発表した。2022年11月の一時解雇に関するMetaの従業員向けメッセージでMark Zuckerberg最高経営責任者(CEO)は次のように説明している。「Covid-19パンデミックが始まった頃、世界は急速にオンライン化し、Eコマースの急増が並外れた収益成長をもたらした。これはパンデミックが終わった後も変わらない永続的な加速状態だと、多くの人が予測していた。私もそのように予測したので、投資を大幅に増やす決断を下した。残念ながら、実際の展開は私の予測とは違っていた(『Mark Zuckerberg’s Message to Meta Employees(メタ従業員に対するマーク・ザッカーバーグのメッセージ)』、Meta Platforms、2022年11月9日、電子版)。その他にも多くのハイテク企業が、パンデミックによる永続的な世界の変化について同じように判断を誤ったらしく、ハイテク業界全体が大幅な縮小の時期を迎えている。急速な拡大から一転して崩壊に近い状態に陥った企業もある。そうした企業の一つが、テクノロジー対応のホーム・フィットネス機器メーカーPeloton Interactiveである。

ハイテク業界が直面しつつある問題には、その他にも多くの要因が影響している。たとえば『SoC1323:生活費の危機』で述べているように、主要経済圏の消費者が高インフレによる深刻な圧力を受け、エネルギー、食料、住宅コストの高騰に悩まされている。こうしたコスト高騰の裏側には、ウクライナでの戦争、気候変動の影響、パンデミック中に起こったリモートワークへの転換など多くの要因が存在する。各国の中央銀行は金利の引き上げによって高インフレに対応しているが、それがハイテク企業の市場評価額の低下に強く影響しており、これらの企業が急成長するための資金調達が高くつく結果にもつながっている。

ハイテク業界の苦境は、必ずしも世界がパンデミック前のトレンドに完全回帰することを意味するわけではない。多くの企業で人員が削減され拡張計画が縮小されているとはいえ、パンデミック前の状態に逆戻りするほどの縮小ではない。たとえばamazonは削減策を実施しても、パンデミック前に所有していたレベルを大きく上回る倉庫面積を今後も所有し続けるであろう。さらに、『SoC1283:リモートワークがもたらす変化』で指摘したように、Covid-19パンデミックによって非常に多くの業界でリモートワーク・ポリシーが飛躍的に広がり、一部のハイテク企業幹部が予測したほど広範囲かつ急速ではないとはいえ、その拡大は今までのところ確かに永続的であるように見える。従業員のオフィスへの復帰に努めている企業は多いが、リモートワークが生産性、コスト、環境に与えるメリットを実感している企業も多い。加えて、企業によるオフィス復帰の取り組みに多くの労働者が抵抗している。その一方で、クリエイティブなアイディア創出など、ある種の作業にはオフィスのほうが適していることを示すエビデンスも出現している。週に2~3日だけオフィスに出社するハイブリッドワーク体制が、オフィスワークとリモートワークの利点と欠点のバランスを取れることから人気を集めている。

テック業界の苦境は、最終的には社会とガバナンスに広範囲の影響を及ぼす可能性がある。『SoC1293 :ビッグテック勢力への脅威』への脅威で指摘したように、Meta、amazon、Apple、百度(Baidu)、Tencent Holdingsなどの巨大なハイテク企業は、経済、テクノロジー、政策という極めて重要な各分野で相当に大きい力を行使する存在になり、Covid-19パンデミックとともにその権力は大幅に拡大された。Covid-19の社会的影響が弱まるにつれ、巨大ハイテク企業の力も同様に衰えていく運命にあるようだ。ただし、巨大ハイテク企業には規制変更という脅威もある。巨大ハイテク企業どうしが相互作用する競争環境の変化もまた脅威である。そのため、これらの企業が現状での危機に対処し、時代を先取りした成長戦略をすばやく再開するような経営上の自由度は、非常に低い。たとえばMetaの場合、人々が働いたり、交流したり、楽しんだりするために優先的に選ばれる場所としての仮想現実(VR)メタバースの開発という、非常に野心的な長期計画がある。Metaは2022年に減収となったため、VR関連の莫大なR&D支出を減らすよう投資家から強く要求されつつあり、規制当局からは、社会に破壊的な影響を及ぼす新種のデジタル独占になりうるものを構築しようとするMetaの計画が、事細かに精査されつつある。その結果、Metaはメタバース・ビジョンを迅速に実現できず、未来の競合の餌食となることを避けられなくなるかもしれない。

ハイテク業界の低迷に伴い、暗号通貨や暗号資産など、ブロックチェーン対応のデジタル資産およびサービスの市場にも破綻が生じている。ブロックチェーン技術を利用した新しい商品やサービスを構築してきた企業や投資家の多くが、やはり苦境に陥っている。『SoC1298:Web3』では、コンテンツの配信、ホスティング、収益化において抜本的な非中央集権化を実現する、ブロックチェーンなどのテクノロジーを組み込んだインターネットの新たな進化に関連し、新たなビジョンについて論じている。暗号通貨の崩壊は必ずしもWeb3の終焉を意味するわけではないが、それによってWeb3というビジョンへの関心が大きく後退し、Web3テクノロジーを具現した新しい製品、サービス、プロトコルが近い将来、主流に躍り出る可能性が低下することはありうる。(英文)