サービスとしての現実のカスタマイズ

2023年06月

著者:Katerie Whitman

ユーザーの周囲をスキャンし、それを新しいデジタル現実に変換するソフトウェア対応サービスには、巨大な市場が出現する可能性がある。

サービスとしての現実のカスタマイズ

物理的(フィジカル)な現実をカスタマイズするためのソフトウェア関連サービスが、自動車内装市場を含む新しい市場スペースに移行し始めている。ニューラルインターフェースの進歩により、人々は物理的な現実のあらゆる側面をカスタマイズすることができるようになった。現在、拡張現実(XR)技術により、デジタルの物体や経験を物理的環境における物体や経験と融合させることにより、人々が視聴覚の現実をカスタマイズできるようになり始めている。

2023年のニューヨーク国際オートショーで、Hyundaiは、エンドユーザーが車内での体験のカスタマイズに役立つ新しいソフトウェアベースの機能を提供して収益を上げる得る計画について説明した。Hyundaiが検討しているいくつかの特徴には、たとえば、高度なインフォテインメントと車内ゲーム、ペットの飼い主のための特別な操作モード、電気自動車のためのエンジン音、インフォテインメントディスプレイのためのデジタルテーマなどがある。特別なハードウェアとソフトウェアの統合により、最終的には、ユーザーがデジタルな衣服、家具、その他の物体を仮想世界内でダウンロードして設置するのと同じ方法でダウンロードして設置できる、幅広くカスタマイズされたインテリア体験を、車両が提供できるようになる可能性がある。たとえば、ある特定のスポーツチームのファンは、チームの色やロゴを反映して車のディスプレイや内部照明を変化させるような、ダウンロード可能なデジタルテーマを購入することができる。

他の自動車メーカーも、既にHyundaiが開発中の特徴と同様のものの一部を先駆けて開発しているが、それらに関連する強固なビジネスモデルをまだ作り出していない。例えば、Teslaは車載ゲーム、ダウンロード可能なクラクション音、自動車市場では珍しかった同様の機能を提供してきたが、これらの機能はそれほど人気がなかったようである。自動車メーカーの多くは、車のユーザーが車室内のデジタルテーマを作ることができるように、かなり広範なカラーオプションを持つカスタマイズ可能な車室内アクセント照明などの機能を提供しているが、このような機能は初歩的なものであった。ソフトウェアを通じて人々の物理的な現実をカスタマイズするのに役立つソリューションの数多くの例は、自動車分野以外にも存在するが、そのようなソリューションもまた、ニッチな人気しか見出せていない。例えば、ビデオコンテンツと統合したスマートライティングシステムは、ホームシアター愛好者やゲーム愛好者の間でささやかな成功を収めている。同様に、ArtcastやSamsung Art Storeなどのサービスでは、薄型テレビを絵画に変えることができるが、これまでのところ、広く普及するには至っていない。

他方、純粋にバーチャルなキャラクターや空間をカスタマイズできるサービスは、特に若年層で非常に人気があった。例えば、Robloxのバーチャルワールドプラットフォームのユーザーを対象とした2022年の調査では、Z世代のユーザーの75%近くがバーチャルファッションアイテムに現実世界の資金を費やしており、バーチャルファッションに資金を費やしているユーザーの12%が毎月20ドル以上を費やしていることが明らかになった。Demand Sageのデータによると、Robloxは2023年5月時点で月間2億1400万人以上のアクティブユーザー(80%が16歳未満)を擁しているので、Robloxだけで毎月バーチャルファッションにお金を使う若者の数は数千万人にのぼる可能性がある。

2023年6月、Appleは自社の『Vision Pro XR』ヘッドセットの公開デモを開始した。Vision Proは、それ以前の多くのXR機器と同様に、ユーザーの現実世界の周辺の3次元画像を捉え、それらの周辺を目の近くに配置されるディスプレイで再現し、ユーザーを取り巻く物理空間内に存在するように見える、仮想物体の画像とインターフェース要素を混合することができる。このように、利用者は、限られた範囲ではあるが、物理的な現実をカスタマイズできるようになる。実際、Appleの最初のVision Proのデモには、主に、ユーザーの環境への仮想ディスプレイ画面とアプリケーションウィンドウの挿入が含まれていた(ユーザーはデバイスを通して純粋に仮想環境を見ることも可能)。Vision Proの能力は特段画期的なものではないが、ハードウェア、ソフトウェア、センシング、ディスプレイの改善を組み合わせることで、Vision Proのバーチャルな現実と物理的な現実の融合は、これまでの最先端のデバイスの融合よりもかなり流動的で現実味を帯びてくる。

物理とバーチャルの融合の市場親和性はまだ完全には説得力がなく、Vision Proはその高コスト、物理的に扱いにくい特徴、電池寿命の短さにより、主流市場にはまだ馴染まないが、XR技術は現在、バーチャルおよび物理的な世界をシームレスに統合することができるという見通しになっているのかもしれない。今後10年以内に、さらなる技術改善により、現在のデバイスよりもはるかに手頃で快適なXRデバイスが現れ、Vision Proのものと同等の性能が得られる可能性があり、洗練されたXR体験を主流に利用できるようになるだろう。このようなデバイスは、XRデバイスを通じて入手可能なバーチャルの衣服、家具、装飾、体験に現実世界の貨幣を支払うというコンセプトに非常に親和性の高い市場を見出し、現実のカスタマイズがマスマーケットで一般的に行われるようになるだろう。例えば、XRのユーザーは、機器や特別なソフトウェアを使って、現実の家の内装の見た目を、宮殿や宇宙船、あるいは他の想像できる事実上のものとマッチさせることができる。ユーザーの周囲をスキャンし、それを新しいデジタル現実に変換するソフトウェア対応サービスには、巨大な市場が出現する可能性がある。

XRによりいつの日か実現する可能性のある現実のカスタマイズ機能のタイプは、現在存在する類似の機能のタイプに比べて大きな優位性がある。現在のオプションは、ソフトウェアで定義された体験を生み出すために、照明とディスプレイの複雑な配置を必要とする。真に没入できるソフトウェア定義の体験を作成するには、通常のユーザーが合理的にサポートできる以上のレベルのハードウェアとスペースへの投資が必要になるため、このような没入体験は、一般的にインスタレーション・アート、ミュージアム、および同様の場所にのみ存在する。対照的に、XRは、単一のパーソナルデバイスを使用して、完全に没入体験可能な環境を作成できる。その経験を、互換性のあるXRデバイスを持たない他の人と共有することはできないが、XRの人気が爆発的に高まれば、ソフトウェアによって生成された機能を実世界の環境と組み合わせることによって、共有できる没入型空間を作り出すサービスの人気も、同様に爆発的に高まる可能性がある。

(英文)