Web3インフラを利用した炭素トラッキング

2023年08月

著者:Katerie Whitman

新たなWeb3テクノロジーは、自主的炭素市場が抱える課題に対処するのに役立つだろう。理想的には、Web3ソリューションは、自主的炭素市場をよりアクセスしやすく、より透明で、より信頼でき、より効率的にすることができる。しかし、この用途で広く使われるようになるには、それ自体が抱える多くの課題を克服しなければならない。

理想を言えば、Web3ソリューションは自主的炭素市場をもっと利用しやすく、透明性が高く、信頼性が高く、効率的なものにするだろう。

『SoC1385 :問題を抱える炭素市場の将来』では、今後数十年間に自主的炭素市場が急成長し、その結果毎年数十億トンの二酸化炭素が大気中から除去される可能性があることを説明している。しかし、その可能性を実現するためには、自主的炭素市場は市場に対するステークホルダーの信頼の欠如や、質の高い新たなカーボンオフセットの供給不足など、重要な課題を克服する必要がある。新しいWeb3技術は、自主的炭素市場がこれらの課題に取り組むにあたって助けとなる可能性があるが、そのような技術には独自の課題がある。

規制が厳しく、参入が限定されているカーボンクレジット市場とは異なり、自主的炭素市場はほぼすべての人に開放されている。自主的炭素市場は、温室効果ガスの排出を削減、回避、隔離するプロジェクトの実施によって、法人が生み出す炭素の相殺を取引する。そして、これらの市場は、カーボンオフセットを認証し、監視する団体から検証を受ける。個人や組織はどのような目的に対してもカーボンオフセットを購入することが可能だが、持続可能な開発目標を達成する手段としてカーボンオフセットを利用している大企業がオフセット購入者となる傾向がある。

Web3技術は自主的炭素市場での利用がすでに始まっており、カーボンオフセットを実施、検証、監視、取引する従来のシステムが、分散型ブロックチェーンベースのプロトコルを活用するさらに自動化されたシステムに置き換えられたり、補完されたりしている(Web3技術に関する説明については、『SoC1298 :Web3』を参照)。例えば、オープン・フォレスト・プロトコル(OFP)は、森林プロジェクト(炭素排出を回避するために既存の森林を保護する、あるいは大気から炭素を隔離するために新しい森林を植え、管理することを目的とするプロジェクトなど)を伴うカーボンオフセット用にWeb3インフラストラクチャーと一連のソフトウェア・アプリケーションを提供している。

OFPのソリューションを使用してカーボンオフセットを実施するには、まずOFPのブロックチェーンで土地の区画を登録し、その後、OFPモバイルアプリを介して予備モニタリングデータを収集してアップロードする。区画登録と関連するメタデータは、ブロックチェーンに登録された恒久的かつ唯一無二なデジタルアセットの1種、非代替性トークン(NFT)となる。第三者認定機関は、そのブロックチェーンを使用してその区画に関する情報と最初のモニタリングデータにアクセスし、「土地データ分析、リモートセンシングテクノロジー、森林の専門知識」(https://www.openforestprotocol.org/product)を駆使して情報を検証する。結果として得られるNFTが検証されたら、その所有者はそれをカーボンオフセット市場で販売することができるようになり、そのNFTによって代表されるプロジェクトに関連するすべての監視活動はブロックチェーンのNFTのメタデータの一部となる。

理想を言えば、Web3ソリューションは自主的炭素市場をもっと利用しやすく、透明性が高く、信頼性が高く、効率的なものにするだろう。例えば、OFPは、ブローカーや検証機関との交渉を必要とする代表的なプロセスを経由するよりも、ソリューションを使用してカーボンオフセットを実施する方がはるかに容易であると主張している。このような理由から、OFPのソリューションは、市場販売用にカーボンオフセットを実施することができない小規模土地所有者たちで構成される大規模でより多様なプールにアクセスすることができる。理論的には、カーボンオフセット・プロジェクトを公的ブロックチェーンのNFTとすることで、近年、自主的炭素市場を悩ませている二重計上問題といったようなものを防ぎ、誰でもプロジェクト関連データを確認したり、関連データを追加することが可能になる。カーボンオフセットの検証とモニタリングの新しい自動化構造が利用されるようになるつれ、OFPのようなWeb3プロトコルはデータを容易に統合することができるだろう。例えば、OFPは、林業センシングのための自動衛星画像ネットワークや新しいIoT装置が、いずれカーボンオフセットのNFTメタデータに関連情報を追加する可能性があると想定している。

したがって、Web3技術は既存の自主的炭素市場が抱えている問題の一部を解決するかもしれない。そこには、おそらく、最も困難な問題である、これからの需要を満たすだけの新たなオフセットの供給が不足しているという問題も含まれるだろう。容易にカーボンオフセットを実施することができれば、供給者候補のプールを大幅に拡大するかもしれないが、急速な気候変動において土地に基づくオフセットの将来の実行可能性を取り巻く大きな不確実性に対処するためには、ほとんど、あるいはまったく手も足も出ない。Web3ソリューションには、自主的炭素市場で広く利用されるために克服しなければならない課題もたくさんある。以下に箇条書きで、最も重要な課題のいくつかをハイライトしている。

規制当局の容認と支援
政府はブロックチェーン技術やトークン化された資産に厳しい規制を課すことへの関心を高めている。こうした規制は、炭素市場におけるWeb3の採用を妨げる可能性がある。逆に、擁護する意味での規制は成長を促進する可能性がある。

拡張性と効率性
ブロックチェーンは環境的に非効率であるという評判がある。自主的炭素市場のWeb3サービスプロバイダーは、プルーフ・オブ・ステークプロトコルを利用するエネルギー効率の高いブロックチェーンを使用しているが、そのようなプロトコルは様々なセキュリティ問題を抱えている。したがって、自主的炭素市場のためのWeb3ベースのソリューションの将来は、安全でエネルギー効率の高い新しい形態のブロックチェーン技術の出現にかかっているかもしれない。

検証と監視のインフラストラクチャー
自主的炭素市場のWeb3プロトコルは、特定の炭素オフセットプロジェクトに関連するデータを保存するために、信頼性が高く、アクセス可能で、透明性が高く、分散化された手段を提供する。しかし、人々は依然としてこれらのデータを追加して検証する必要があり、そのデータは信頼できるものでなければならない。OFPのソリューションは、データを追加または検証する第三者に暗号通貨ベースのインセンティブを提供するが、OFPは参加を許可する前にそのような第三者を評価する。理想的には、多数の独立した検証機関が、コンセンサスに基づくメカニズムを通じて、個々のカーボンオフセットの正当性を確立するために協働することが望ましい。おそらく、既存の自主的炭素市場の構造に対する投資家や規制当局の不満が、カーボンオフセット用にWeb3プロトコルを普及させ、検証機関やテクノロジーの強固なエコシステムにつながるような変化を促すかもしれない。

(英文)