人生の意味が変わりつつある

2023年10月

著者:David Sleeth-Keppler

消費者は旧来の目的や安全性の定義を否定し、新たな意味の源泉を求めている。

最近の消費者行動のシフトは、今日の消費者における意味と目的の認識変化を反映している。世界的な不確実性に直面して中流層の消費者は、これまでの持ち家と家族志向から離れて、柔軟性そして所有権よりも使用権を選んでいる。英国のBayes Business SchoolのAleksandrina Atanasova博士の最近の調査によると、この『リキッド消費者セキュリティ』へのシフトは、消費者が現在、固定資産ではなく、柔軟性を介して安定を認識していることを示している。

世界貿易機関(WTO)によると、マクロ経済の商品消費からサービス消費への移行は、この変化をはっきりと示している。具体的には、WTOによれば、1970年から2021年の間にサービスセクターは53%から67%に急成長しており、消費者がモノの所有よりも、体験的で柔軟な消費に依存している傾向を示唆している。さらに、サービスセクターの拡大により、関税の対象とならない新たな貿易ルートが開放され、各国間の異文化間コミュニケーションと開かれた貿易の拡大を可能にしている。

典型的な『リキッド』消費者は、バックパック1つほどの所有物しか持っていないかもしれないが、短期の住宅賃貸から、ピアツーピアライドシェアリングの配車、フードオーダー、娯楽やオンライン医療の利用まで、デジタルプラットフォームを介してたくさんのサービスを利用している。一方、New Scientist誌に発表された論文によると、医療費の高騰に伴い、記録的な数の消費者が大麻や幻覚剤、その他の精神活性物質を自分で投薬しているという。こうした薬物の人気は、意識の変化だけでなく自暴自棄から生じている可能性が高い。しかし、その使用の増加はまた、消費者が、従来の医薬品や医療ソリューションにこれまで失望してきた可能性があり、それらの意義や、そこから距離を置いて新しい道を探求していることを示している。

カナダのUniversity of TorontoのSpike W. S. Lee準教授による最近の報告は、刺激的な研究結果となっている。価値体系と痛覚感受性に関するLee氏の研究では、痛みに敏感な人々は(痛みに敏感ではない人々と比べて)、彼らが公言している政治的価値体系とは反対の道徳的価値を支持する傾向があることを見出した。たとえば、痛みに敏感な保守派はより自由な価値観を支持し、痛みに敏感なリベラルはより保守的な価値観を支持するということだ。おそらく米国の政治情勢を特徴づけてきた根強い分断を受けて、University of Wyomingの心理学の教授であるBen Wilkowski氏が先導する研究は、保守主義と自由主義の両方に関連する美徳と悪徳を最近調査している。この調査の目的は、これらの価値体系についてバランスのとれた視点を提供し、派閥間でより有意義な対話を可能にすることであった。その結果、保守主義、自由主義ともにポジティブな美徳とネガティブな悪徳の両方を示していることが明らかになった。保守主義は、伝統の統一的価値観だけではなく、意見が分かれるエリート主義という悪徳とも結びついている。自由主義はインクルーシブネスの統一的価値観と結びついているが、意見が分かれる反逆という悪徳とも結びついている。伝統的価値観は、慣例にとらわれない集団に対する偏見につながる可能性があり、反逆は、保守派に対する敵意に結びついている。研究者らは、政治的スペクトルの両側をバランスのとれた方法で考慮することの重要性を強調している。

こうしたトレンドを牽引しているのは、古い目的の定義を否定し、新たな意味の源泉を求める動きである。企業は、こうした文化的なシフトに合わせて自社の戦略やメッセージを調整しなければならない。リモートワークやデジタルノマドの台頭により、今では消費者が好むデタッチメントが可能になった。フレキシブルでオンデマンドなサービスを提供するリモートワーカー向けの企業は、このような環境下で成功を収めるだろう。自由、適応性、人生を最大限体験することを重視する企業は、この層の消費者とうまくつながるだろう。固定的または硬直的と認識されているブランドは、今日の意味を求める消費者を引きつけるのに苦労するだろう。

幻覚剤と大麻は、単に気晴らしだけでなく、自己の発見と個人の成長を促す。将来を見据える企業は、それに対抗するのではなく、受容の波に乗るように自らを位置づけるだろう。このことは、治療や静養を提供するサービスとの提携、あるいは、この新しい消費者層の意識を広げる探求を受け入れる他の方法を見つけることを意味するかもしれない。精神活性物質を摂取していない消費者でさえ、人生の目的を考え直している。人の人生の物語を「ヒーローズジャーニー」として組み立てることで、ウェルビーイングと生活満足度を高めることができると、Journal of Personality and Social Psychology誌で発表された研究が説明している。ブランドは、ストーリーテリングとトランスフォーマティブな物語を、自社のメッセージに統合することができる。ヒーローズジャーニーの構造は、この自己発見というミッションにおいて消費者の心に響くコミュニケーションのテンプレートを提供する。

ビジネスのあらゆる側面において、企業は文化的瞬間と消費者マインドについて理解を示す必要がある。人々は、わざわざ時代遅れの地位と安定性の指標に目を向けない。現代の探求は、内的なものであり、先入観に異議を唱え、個人の成長を促進する経験を通じて意味を求めるものである。商品・サービス、マーケティングで、このような時代の潮流を捉えることができるブランドは、消費者の注目、ロイヤルティ、そして利益を勝ち取るだろう。(英文)