長期的に見た中国のクリーンテック・リーダーシップ

2023年12月

著者:Katerie Whitman

2023年の動きは、中国が近い将来、クリーンテックの完璧な世界的リーダーシップの地位に移行する可能性があることを示唆している。

Strategic Business Insights (SBI)は、クライアントの長期的な計画立案を支援するため、グローバルなビジネス、技術、および社会の代替的な将来展開のパスウェイを記述する3つのシナリオのセットを用意している。3つのシナリオのうちの1つである「Dragon’s Rise」は、中国が、非常に効果的なガバナンス、技術的リーダーシップ、製造能力の組み合わせにより、再生可能エネルギーへの移行において極めて急速な進歩を達成するという未来を想定している。シナリオ期間中、中国は、持続可能な未来に向けた世界の進展を推進する上で、より支配的な役割を果たしている。しかし、低コストの電気自動車(EV)のような中国のクリーンテックイノベーションは、厳しい貿易障壁に阻まれており、西側諸国の関係者がその恩恵を受ける道を制限している。2023年生じたいくつかの重要な進展は、Dragon’s Riseで描く未来に近づいているようだ。以下のセクションでは、これらの進展を要約し、その潜在的な長期的影響を探る。

  • 低炭素エネルギーの成長におけるブレイクスルー。Carbon Briefの2023年の予測によれば、中国の温室効果ガス排出量は、2024年以降、構造的な減少期に入る可能性が高い。極めて重要なのは、中国の世界有数の再生可能エネルギー生産能力の伸びが、エネルギー需要全体の伸びを上回っていることで、持続可能なエネルギーシステムに向けて有意義な前進を遂げることができる。世界的には、再生可能エネルギーの成長は、全体的なエネルギー需要の増加に追いつかず、その結果、化石燃料の需要は伸び続けている。
  •  低コストエネルギーの優位性。 Wood Mackenzieの2023年版報告書では、中国が現在、自然エネルギーの製造能力を大幅に増加させていることから、経済的に大きな優位性があることが強調されている。高インフレの一因となっているエネルギー価格の不安定に苦しんでいる他の先進国とは異なり、中国の再生可能エネルギー部門は比較的安値で安定したエネルギー価格を可能にしている。潜在的には、中国における継続的な再生可能エネルギーの成長が、他国と比較して、エネルギーコスト面での優位性をさらに高め、中国の製造業者や情報技術企業に複合的な優位性を生み出す可能性がある。
  • ピークガソリン。 2023年、中国の石油精製会社、Sinopecは、中国のガソリン需要は2023年以降、同社が以前に予測したより2年早く減少し始めるという見通しを発表した。近年、中国でのEV導入が予想を上回り、同国のガソリン需要のピーク到来を加速させている。一方、他の先進国では、EV需要の伸びが鈍化するなど、苦戦が続いている。
  • EV技術のリーダーシップ。 2023年に起きたいくつかの出来事は、中国の製造業者がEV業界で世界的な技術リーダーシップを達成したことを示唆している。例えば、VolkswagenとStellantisは、中国のEV自動車メーカーとの間で技術を利用するための協定を締結したと報じられており、自動車業界の長年の傾向を覆した。2023年末時点で、他社も同様の案件を検討していたという。一方、米国の信用格付け会社であるMoody’s Analyticsの報告書によると、中国は2023年末までに日本を抜いて世界最大の自動車輸出国になると予測されている。中国企業の多くが欧米市場へのアクセスを制限する強力な貿易障壁に苦しむ中、世界の自動車産業における中国の競争力は、向上しているのだ。

2023年にクリーンテックの覇権に向けて中国が大きく前進していたとしても、Dragon’s Riseのシナリオが描いているほどの未来を確信するにはほど遠い。中国は、人口の高齢化、債務の増大、重要なAI技術へのアクセスの喪失などの影響から、深刻な課題に直面している。従って、中国のクリーンテック分野でのリードは、今後数年以内に消滅する可能性もある。一方、欧米諸国の政府は、クリーンエネルギー製造への投資を増やしている。米国のような国々でクリーンエネルギーに対する政治的な支持が引き続き強いことを考えると、2030年以前に中国のリーダーシップが脅やかされる可能性は十分ある。また、他の多くの要因がクリーンエネルギーの将来を根本的に変える
可能性もある。例えば、インドのクリーンテックメーカーは、米国との関係改善を利用して新たな製造拠点を設立している。しかし米印関係が将来的に変化すれば、世界のクリーンテック市場に対するインドの影響力は危険に晒されるか、あるいは逆に加速する可能性がある。

将来の不確実性に効果的に対処するため、SBIのMetaverse WorldとGreen Realignmentのシナリオは、中国の影響力が減少する想定を含め、世界のクリーンエネルギーの進展に向けた異なる別の想定も描いている。SoC1334- Global Scenarios 2035: 複数の未来の可能性 では、シナリオの概要が述べられているので参照されたい。このように、別のシナリオが想定する別の状況を検討して計画に反映することで、戦略的意思決定者は、可能性のある混乱を予見し、不確実性に対してレジリエンスの高い長期を立案できるようになるだろう。

(英文)